今週の書写(4/5)

アリの巣には一定の割合で働かないアリがいるとは聞いたことがある。しかし、ここまで何もしないアリの種類があるとは知らなかった。日本各地にいるサムライアリは、別の種類のアリの巣を乗っ取って働かせる。エサを集めさせ、口移しで食べさせてもらう▼働き手が不足すると、よその巣から卵や幼虫をさらってくる。昆虫写真家、山口進さん(69)の新著『珍奇な昆虫』には、虫たちがつくる「社会」が数多く描かれている。一方的に利用する関係もあれば助け合いもある▼蝶(ちょう)の一種クロシジミの幼虫は体から甘い汁を出してアリに与え、アリの巣で養ってもらう。「虫と虫の関係は様々。何だか人間と似ているでしょう」と山口さんは言う。共生をテーマに虫たちを追い、居住する山梨県そして世界を飛び回ってきた▼昆虫から始まり、関心は広がる。どの虫とどの植物の関係が深いのか。農業が虫にどう影響するのか。最近はトンボのアキアカネが育ちやすい伝統的な田んぼづくりに魅せられ、新潟県に足を運ぶ▼約40年にわたり「ジャポニカ学習帳」の表紙を飾ってきた虫や花の写真も、山口さんの作品である。しかしここ数年は「気持ち悪い」という声に押され、虫の写真はなくなった。一部の復刻版を除き、花だけである▼「子どもは虫が好きだと思う。でも先生や親に苦手な人が増えているのでしょう」と残念そうだ。昆虫を入り口に、自然や科学へと目が開かれる。そんな道はこれから細くなってしまうのだろうか。